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鉛丹 Minium Pb3O4 |
高校の時の友達にエンタンというのがいた。 本名は遠藤なので、おそらく遠タンだったのだろう。 鉛丹は別に鉛の愛称ではない。 鉛は酸化鉛の鉱物であることを差し、 丹は朱色の顔料を差す言葉だ。 本来は丹といえば辰砂だが、 もっと明るい朱色が欲しい際に本鉱を用いたのである。 鉛から出来た朱色の顔料なので鉛丹。 わかりやすい命名といえよう。 その色の明るさゆえに光明丹の別名を持つ。 ちなみに丹の文字はその後顔料を離れ、 鉱物などを用いて精製した薬剤を意味するものとして 広く使われるようになった。 薬の名前に「○○丹」と付けられたりするのは、 このためである。 本鉱は鉛鉱石の二次鉱物として生成され、 その産出は多くない。 市場でもあまり見かけない鉱物のひとつである。 ミネラルフェアで高価な標本に出くわしてビビっていたら、 他の店で安い小さい欠片を見つけたので そっちを購入した経緯はレポートに書いた。 くだんのささやかな標本が、こちらである。 独特の赤橙色がお分かり頂けよう。 そんな次第で鉱物標本としては比較的珍しい鉛丹だが、 実は意外と身近な物質だったりもする。 鉛丹によって作られた顔料には、 サビ止めの効果があるのだ。 このため工場で合成され、広く用いられている。 建築物の鉄部分に塗られているサビ止めが赤橙色だったら、 それは鉛丹なのである。 |
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白鉛鉱 Marcasite FeS2 |
黄鉄鉱と同じ硫化鉄の鉱物である。 組成式もまったく同じ、いわゆる同質異像だ。 黄鉄鉱と違うのは、まずその色である。 白鉄鉱の名の示す通り、 白色とは言わないまでも淡い。 色味としては硫砒鉄鉱なんかに近い。 そして結晶のかたち。 黄鉄鉱が等軸晶系の見本ともいうべき 立方体や5角12面体を示すのに対し、 白鉄鉱は斜方晶系に属する。 ショップに並ぶのは、 写真にあるようなごちゃっと集まった槍のような産状が多い。 一見化石骨格のような趣きがある。 実際、化石を置換しているケースもあるようだ。 独特の質感と相まって高い人気を獲得している。 但し白鉄鉱は黄鉄鉱に比べて安定度がやや低い。 このような鉱物は空気中の水分などと反応して 次第に分解してしまう。 日本のような高温多湿の土地柄では、 この傾向はさらに強くなる。 硫化鉱物なので分解の際には硫酸を生じる。 ラベルや箱を汚損する可能性があるので気をつけたい。 マーカサイトの名で貴金属として流通していることもある。 当然合成品なのだろうが、 分解したりしないのかちょっと心配だ。 |
写真1 写真2 |
アタカマ石 Atacamaite Cu2Cl(OH)3 |
フッ素、塩素、臭素、ヨウ素といった元素を主成分とする ハロゲン化鉱物の一族は決して大所帯ではない。 岩塩とほたる石は有名だが、 その他はあまり一般に知られていない。 へそ曲がりの私は、そんなハロゲン化鉱物を 隙あらば紹介してやろうと狙っているのだった。 目を向けてみればなかなか魅力的な顔ぶれだ。 既に紹介済みのビリオム石やボレオ石も、 赤や青のヴィヴィッドな色彩を示す鉱物である。 今回はひとつ濃緑色の仲間に登場してもらおう。 チリのアタカマ砂漠で採れるアタカマ石である。 勘の良い方はお気づきだろう。 この緑色は銅の発色だ。 今までも紹介してきた孔雀石やブロシャン銅鉱などと同じく、 本鉱も銅の二次鉱物なのである。 拡大するとなかなか美しい透明な結晶が見える。 標本はこういった針状結晶が集合しているものが多く、 銀星石のような感じで母岩の上に花開いている。 購入したチリのお店では英語のチラシをつけてくれた。 それによれば本鉱はParatacamite(パラアタカマ石)、 Botallackite(ボタラック石)と同質異像の関係にあるらしい。 unusual で attractive な鉱物だと盛んに宣伝している。 アタカマ石は火山ガスから生成するケースがあり、 「楽しい鉱物図鑑」によれば、三宅島の噴火の際に 溶岩の表面に出来たものが確認されているという。 |
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ソーダ沸石 Natrolite Na2Al2Si3O10*2(H2O) |
小さな晶洞の中から、 白い綿毛の塊のようなものが覗いている。 ぱっと見ケサランパサランのようだが、 触ってみると毛は硬くてもろい。 box.12で紹介したソーダ沸石の、 ちょっと面白い結晶標本なのである。 といっても産状としては珍しいものではない。 それどころかこのような形で産する沸石類は他にもたくさんあり、 これらを区別するには偏光装置が必要となる。 この標本はおなじみのインドの沸石屋で購入したものだ。 怪しい人品の店主の「Natrolite」の言葉を信じて ソーダ沸石としておくが、実のところ確証はない。 しかし確証はなくとも見た目は楽しい。 鉱物の面白さを十二分に伝えてくれる素敵な標本である。 |
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ハウスマン鉱 Hausmannite Mn3O4 |
酸化マンガンの鉱物であり、 重要なマンガン鉱石のひとつである。 鉱物標本の世界ではマンガンは微妙な元素だ。 うまく行けば菱マンガン鉱やバラ輝石のように 美しい紅色を装ってくれる。 が、多くの場合は軟マンガン鉱に代表されるように なんだか地味な黒ずんだ鉱物だったりする。 乾電池を分解すると出てくる黒い粉は二酸化マンガンだ。 チェッチェッコリ。 幸か不幸か日本にはマンガン鉱床が多い。 ハウスマン鉱もおなじみの鉱物である。 だいたいはやはり黒っぽい塊状が多く、 黒マンガン鉱の別名を頂戴しているくらいである。 しかし本鉱は時にシャープな結晶を示す。 写真の南アフリカ産のものは有名で、 市場にも時折出回っている。 結晶面に走る条線も美しく、 鋭い金属光沢を放って堂々たる風格がある。 お気に入りの一品である。 |
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燐銅ウラン鉱 Torbernite Cu(UO2)2(PO4)2*10(H2O) |
放射性元素ウランの二次鉱物については、 燐重土ウラン鉱の項で簡単に述べた。 ここに紹介する燐銅ウラン鉱も、 それらUran Mica(ウラン雲母)と呼ばれる一族の ひとりである。 雲母とはよく言ったもので、 グリーンのぺらぺらした薄い板状結晶だ。 燐重土ウラン鉱やカルノー石に代表されるように、 ウランはしばしば黄色を示す。 これに対して銅は青〜緑色の発色をすることが多い。 標本の燐銅ウラン鉱はこの両者の中間ともいうべき、 やや明るいグリーンに光っている。 ニッケル華にやや似てなくもないが、 緑の色調が違う。 本鉱は心なしか蛍光グリーンを帯び、 なにか危険なものを含む警戒色のような面持ちがある。 その成分を知った上での偏見かもしれないが。 しかし、放射能をもつ鉱物でありながら なぜか紫外線に対しての蛍光性がないのは、 既に述べた通り。 なかなか謎の多い、ウランの花なのだった。 |
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銅スクロドフスカ石 Cuprosklodowskite (H3O)2Cu(UO2)2(SiO2)2 |
上に紹介した燐銅ウラン鉱の標本には、 同じような色調の透明な針状の鉱物が共産していた。 やはり銅とウランの作り上げた美しい石の花、 銅スクロドフスカ石の結晶である。 スクロドフスカはSklodowskaと綴り、人名である。 ラジウムの発見で名高いキュリー夫人の旧姓なのだ。 本鉱の銅をマグネシウムに置き換えたものが、 本家のスクロドフスカ石である。 むろん発見されたのはこちらの方が先だ。 後に発見された本鉱は、 マグネシウムの代わりに銅を含むスクロドフスカ石ってことで、 Cupro(銅の)の接頭語が付いて 銅スクロドフスカ石と命名されたのである。 この手の修飾語はいまいち一定しておらず、 以前紹介した含銅アロフェンなどは Cuprian Allophane と表記されている。 てな訳でもともと銅スクロドフスカ石は分家だったのだが、 その後銅の産出で有名なコンゴで多産するようになった。 標本市場では本家よりメジャーになってしまった次第である。 本鉱にその名を贈られたマリー・キュリー、 旧姓スクロドフスカ女史は、 ヨアヒムスタール産の閃ウラン鉱からラジウムを発見した。 含有率は非常に低く、抽出は困難を極めた。 そして長年に亘るラジウムと放射線の研究の中、 彼女の身体は次第に蝕まれていったたのである。 1934年、マリー・キュリーは67歳でその生涯を終えた。 死因は白血病であった。 ラジウムの偉大な発見者は、 人類史上最初の 被曝による犠牲者になってしまったのだった。 これら美しい石の花々は、 ひとつ間違えば人類を滅ぼしかねない 強大な力の指標なのである。 |
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スペサルチン (満礬ざくろ石) Spessartine Mn3Al2(SiO4)3 |
名高い和田峠のスペサルチンである。 山ノ尾のアルマンディンと並ぶ本邦産の代表的なざくろ石だ。 これらの産地が有名なのは、 やはりモノが素晴らしいからである。 病膏肓に入ったマニアならともかく、 どうせ石拾いにゆくなら綺麗な方がよかんべ、と思うのは ごく自然な欲求である。 装飾品的価値を抜きにしても、 形がよく綺麗な結晶なら誰でも欲しい。 話を聞いた人々はこぞって採掘に出かけた。 しかし中にはお行儀の悪い人もいて、 結局、両産地ともに悲しいかな立入禁止になってしまった。 もっとも考えようによっては、 絶産になる前に保護されたとも言えるわけで。 いきなりビルがおっ立つ仕儀にならない限りは、 喜ばしいことなのかもしれない。 和田峠のスペサルチンは石英安山岩中に産した。 母岩の風化によってたいがい写真のような分離結晶となっている。 鉄分が多いためか透明感はなく真っ黒だが、 結晶面はシャープであり強い光沢を放つ。 私なんぞにはどんな人工の複雑なカット石よりも 美しく思えてしまう輝きである。 同地は古くからの有名産地であり、 たくさんの人がたくさん掘って行った。 手放す人もいたりして、 いまだに市場には意外と安価で出回っている。 図鑑によってはスペサルタイトと記されていることもある。 |
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山入水晶 Phantom Crystal SiO2 |
数ある水晶のバリエーションの中でも、 山入水晶はもっとも興味深いもののひとつである。 以前二重のものを紹介したが、 今回のはなかなか凄い。 3センチ大の結晶の中に、 10ばかしの山が入れ子になっている。 ここまでくると山入というよりはすでに年輪に近い。 最初の小さい山が出来て、 それを覆うように成長していった節目節目。 悠久の時の流れが ひとつの結晶のなかに封じ込められているのである。 このような水晶は、 中をよく見せるために研磨されていることが多い。 写真の標本も結晶面はよく磨かれている。 前も触れたように透明結晶のライティングはなかなか難しい。 今回は結構うまくいったような気がして、 ちょいと自己満足の写真だったりする。えへん。 |
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バリッシャー石 Variscite AlPO4*2(H2O) |
box21で紹介したバリッシャー石の結晶標本である。 つっても、このボタンみたいなものがひとつの結晶って訳ではない。 拡大してもしかとは判らないが、微小な結晶の集合だ。 ラベルには堂々と「結晶」とあるが、 塊状や皮膜状ではないという程度ではある。 もっとも、微小とはいえバリッシャー石の 肉眼で見える結晶は稀であり、 だいたいが標本的価値よりも 見た目の変てこさに惹かれて入手した品である。 カバンシ石などもそうだが、 ボール状の結晶群がこそっと母岩についてる標本に弱いのだ。 みずみずしい薄緑色はまごうかたなき本鉱の特色だ。 アップで見るとどこか涼しげなおもむきが感じられる。 そんなバリッシャー石の標本である。 |
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