Notes/2
煙水晶
石英
Smoky Quartz




SiO2
紫水晶(アメシスト)と並ぶ、メジャーな有色水晶である。
着色は微量のアルミニウムイオンのためであるという。
黄水晶や紅水晶ほどの稀産ではないが、
無色の水晶にコバルト60を照射することによって
人工的に着色することが可能であり、市場に出回っているらしい。
この標本は信頼できるショップで購入したもので、
まず本物だろうとは思う。
仮に偽物だとしても4センチ大の美晶が3本1800円では
そんなに文句を言う気にもならない。

ところで標本の価格は母岩のあるなしで結構左右される。
生成条件を示す母岩つきの方が当然高価になる。
このため、人工的に接着して売られている場合もあるので要注意。

無色透明の水晶も美しいが、
うっすらと色のついたこれらの結晶もまた楽しいものだ。
写真1
写真2
アルマンディン
(鉄礬ざくろ石)
Almandin





Fe3Al2(SiO4)3
宝石としてはガーネットの名で知られるざくろ石は、
鉱物学的には14種類からなるグループ名なのだった。
この標本はその1種であるアルマンディンである。
和名の鉄礬ざくろ石の名の通り、
鉄と礬(アルミニウム)を主成分とする。

濃赤色の24面体の結晶は、見事な天然のカット石である。
購入を見送ったが、ショップには4センチ大に及ぶ
シャープな結晶も並んでいた。
もっとも、そういったものは総じて透明度は低い。
透明度の高いものは宝石としてカットされてしまうからである。

ざくろ石もまた水晶同様、産出量の多い鉱物資源だ。
手頃な鉱物趣味としておすすめしたい一品である。

アフガニスタン産のこの標本は、
白い曹長石とのコントラストが美しい。
写真1
写真2
オーケン石
Okenite



Ca5Si9O23・9H2O
写真にはウサギの毛玉のようなものが写っている。
触ってみても柔らかくふわふわしていて、やはり毛玉そのものだ。
初めて見る人は首をひねるが、これも立派な鉱物である。
毛状の結晶が放射状に集合して、このような姿形をなしているのだ。

見た目が可愛らしいため、近年人気が高いらしい。
その不思議さの割に特に珍しい鉱物というわけではなく、
日本からも産出が知られている。

オーケンはドイツの自然研究家Ockenにちなんだ名前。
写真1
写真2
十字石
Staurolite




(Fe,Mg,Zn)2Al9(Si,Al)4O22(OH)2
やたらと複雑な化学組成の鉱物だ。
手元の他の図鑑には違う化学式が載っているが、
ここでは「楽しい鉱物図鑑」の記載に従う。

その名の通り十字型やX字型の石であるが、
単結晶でこの形になることは自然界ではまずありえない。
2つの結晶が組み合わさった双晶なのである。
鉱物の双晶には色々な法則があるが、
十字石はこのパターンで双晶になりやすいのだ。
十字双晶(Sturolite twin)と呼ばれている。

本来は稀産らしいが、たまたま大量に入荷したらしく
立派な標本がごろごろ並んでいた。
当然のことながら、キリスト教国で非常に珍重される鉱物である。
写真1
フズリナ石灰岩
Fusulina-limestone



                                      
フズリナ(紡錘虫)は太古の海を泳ぎまわっていた
原生動物である。
紡錘型をしているので紡錘虫の和名がある。
この小さな生物には石灰質(炭酸カルシウム)の殻があった。

生命の尽きたフズリナは海底に降り積もってゆく。
その石灰質の殻が、長い年月を経て固まり岩石となった。
こうして出来た堆積岩が、フズリナ石灰岩である。
平たく言えばフズリナという生物の化石だ。

標本中に見える乳白色のやや細長い卵型の模様が、
フズリナ本体の骸である。

日本をはじめ世界各地に産する。
写真1
グロッシュラー/
ヘソナイト
(灰礬ざくろ石)
Grossular/Hessonite

Ca3Al2(SiO4)3
カルシウムとアルミニウムを主成分とする、
ざくろ石グループの一員である。
かなり多様な色彩バリエーションがあるが、
最初に発見されたものがグーズベリーに似た緑色であったため、
その学名R.grossularia を取ってグロッシュラーの名前がついた。

この標本のように透明度の高いオレンジ褐色のタイプは、
ヘソナイトと呼ばれて宝石にカットされる。
スリランカ産のものが最良質であるという。
一緒に写っている無色透明の板状結晶は透輝石Diopside。
写真1
写真2
輝安鉱
Stibnite




Sb2S3
アンチモンの硫化鉱物・輝安鉱は鉱物標本の雄である。
かつて愛媛県の市ノ川では非常に美しい金属光沢を放つ
本鉱の巨大結晶を多産し、世界的に有名であった。
私も国立科学博物館に展示されているものを見たことがある。
経年変化で光輝こそくすみがちではあったものの
堂々とした風格の一品であったと記憶する。

すでに絶産となった市ノ川以外にも日本各地で産出するが、
市場で見かける結晶標本はルーマニア産が多い。
写真のものは鋭利な針状結晶の集合体で、
強い光輝のある魅力的な標本である。

ただし、モース硬度が2と見た目よりもずっと柔らかいので
このタイプの標本は取り扱いに注意が必要。
購入した時、既に箱の隅には「折れた針」が散らばっていた。
写真1
写真2
モリブデン鉛鉱
Wulfenite






PbMoO4
鉱物好きであった宮澤賢治の童話には、
さまざまな岩石鉱物や金属が登場する。
私がモリブデンという物質を知ったのもやはり賢治の童話であった。
特殊鋼に必要な金属で、水鉛とも呼ばれる。
日本でも採掘されているモリブデンの主要鉱石
輝水鉛鉱MoS2は、鉛銀灰色のごく地味な鉱物だ。
くすんだアルミ箔のような雰囲気で、柔らかく触ると指が黒くなる。

しかるにこの標本はどうだろう。
エナメルのような光沢のある鮮やかな黄色の板状結晶が
母岩からにょきにょきと生えている。
これがモリブデンと鉛の酸化鉱物、
モリブデン鉛鉱の結晶標本なのである。
他にもオレンジや赤色のものもあり、非常に色鮮やかだ。
発色の原因は混入するクロムであるとされている。

学名は第一発見者の名に由来するものである。
水鉛鉛鉱の和名もあるが、
あまりに語呂が悪いのでおすすめしない。
写真1
写真2
ルチル入り水晶
石英
Rutile Quartz






SiO2
研磨された無色透明の水晶の中に、
何やら黄金色の金属繊維のようなものが見える。
これはチタンの酸化鉱物ルチル(金紅石)TiO2の針状結晶だ。
独立した結晶体よりも、このように他の鉱物に混入する
インクルージョンとしての顔の方がおなじみという鉱物である。

ルチルの特徴として、針状になりやすい上に
双晶(十字石の項参照)になりやすいという性質がある。
サファイアやルビーの中に混入している場合、
表面をカボションカットして磨き上げると
混入したルチルの針状結晶が光を反射し、
見事な十字または六条の光の筋が浮き出ることがある。
これをスター効果(アステリズム)と呼び、
有名なスタールビーやスターサファイアの原理となっている。

写真のようなルチル入りの水晶は
針入水晶あるいはビーナスヘア・ストーンと呼ばれ
美しいものは宝石としてカットされる。
なるほどビーナスの髪なら金髪だろう。
写真1
写真2
トパーズ
Topaz







Al2(F,OH)2SiO4
11月の誕生石として知られるトパーズ(黄玉)は
立派な宝石である。
これはその原石の標本なのだが、
こういうのがトパーズ原石のスタンダードかと言われると
決してそんなことはない。
トパーズは無色から黄、青、ピンク、緑と
さまざまな色彩を持つ鉱物である。

但し天然のブルートパーズやピンクトパーズは稀産で、
宝石として出回っているものの殆どは人工的に着色されたものだ。
着色と言っても別に色を塗るわけではない。
水晶の項でも述べたように、
鉱物には放射線を照射する、あるいは熱処理を施すことで
その色彩を変化させるものが存在する。
黄色のトパーズは熱処理でピンクトパーズになる。

この標本はわずかにシェリー色を帯びた非常に美しい結晶だが、
大きさは5ミリ程度である。撮影には少々手を焼いた。

トパーズは日本にも産出する。
写真1
写真2
めのう
石英
Agate
(Quartz)









SiO2
めのうという物質の定義はちょっとややこしい。
平たく言えば「紅色もしくは縞模様のある石英」ということになる。

石英の肉眼的結晶が水晶であることは既に述べた。
肉眼ではわからないような顕微鏡サイズの結晶が集まって
塊状になったものを玉髄(カルセドニー・潜晶質石英)と呼ぶ。
さらに、このうち縞状の構造を持つものを
特にめのう(アゲート)と呼んで装飾に用いているのである。

日本で一般に市販されているめのうは紅色をしていることが多い。
これは含まれる鉄分の影響だが、
加熱処理で赤味が強調されているケースも少なくない。
本来が装飾目的なので、別にそれで問題はないわけだ。
近年は無色の玉髄を任意の色に染めて
めのうに加工することも多いと聞く。

この標本はその昔国立科学博物館で買い求めた
鉱物標本箱の中に入っていた一品である。
なんだかあまりに地味なので、購入した当時は
「これが本当にめのうなのか? 
ラベルの貼り間違いじゃないのか?」と
疑問に思ったくらいである。
しかし上に述べたような次第で、
装飾品にならないクラスの
未加工のめのうの原石はこんな感じなのである。
いちおう縞状の構造がわかるようにアップにしてみた。
間に透明な水晶の層があるのがおわかり頂けるだろうか。

今はこの地味なめのうも、
それはそれで美しいと思っている。
写真1
写真2