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ほたる石 Fluorite CaF2 |
私のようなカメラ好きにはなじみ深い鉱物である。 合成された無色透明の蛍石は 光学レンズとして使用されるためである。 蛍石とガラスを組み合わせて設計されたレンズは 抜群の描写力を誇り、 ひところ蛍石レンズといえば高級レンズの代名詞であった。 天然のほたる石は世界的に広く産出する鉱物である。 用途が広いため採掘量も多く、 贅沢を言わなければ標本市場では100gなんぼの値段で売られている。 しかし値段が安かろうが美しいものは美しい。 独特の柔らかい透明感は見るものの心を和ませ、 さらに緑から黄色、オレンジに紫に無色透明と様々な彩りで われわれの目を楽しませてくれる。 立方体や正8面体に結晶するが、 ショップで見かけるこれらの形のものの多くは 自然の結晶形ではなく、 塊をうまいぐあいに割ったものである。 この標本も大きな塊で産出したもののへき開片である。 ゆったりとした青と緑の帯状の色彩が美しい。 |
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辰砂 Cinnabar HgS |
辰砂は水銀の硫化鉱物である。 水銀の原料であると同時に、 赤色の顔料もしくは漢方薬として古くから利用されてきた。 「丹」は古代中国で辰砂をさして言った言葉であり、 日本でも丹のつく地名はこの鉱物の産地であったところが多い。 結晶は写真のように六角柱状または板状をなす。 日本国内にも産地は多いが、 大概は脈状や塊状、粉末状で 結晶での産出は少ない。 光沢はやや金属味を帯び、 色合いはまさしく血のような風情がある。 |
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弗素燐灰石 Fluor-apatite Ca5(PO4)3F |
燐灰石Apatiteはいくつかの種類からなるグループ名だ。 例えば人間の骨や歯は水酸基を多く含む 水酸燐灰石(ハイドロキシ・アパタイト)に属する。 白い歯を守るハミガキがアパガードと命名されるゆえんである。 ここに紹介する標本は弗素Fを主成分とする 弗素燐灰石である。 本来は無色ないし白色だが、 例によって微量の他の物質のためにさまざまに着色する。 写真の黄色いメキシコ産は有名。 ドロップのような可憐な結晶である。 |
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硫砒銅鉱 Enargite Cu3AsS4 |
標本ケースに入っているのをパッと見ると、 何だか暗い灰色のざらざらした地味な石である。 ところが持ち上げてよく見てみると 非常に複雑な色彩と光沢を持つ鉱物であることに気付く。 このような金属鉱物の美しさを写真に収めるのは難しい。 おそらく錆色(表面が酸化してついた色)であろう 紫味を帯びた褐色は光の方向によって微妙に色を変えるし、 全体を覆う微細な結晶が光を乱反射して 本来の光輝を消してしまう。 色々試してみたのだが、 この写真もいまいちその魅力を再現できていない。 ぜひ実物を手にとって見て頂きたい鉱物である。 |
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魚眼石 Apophyllite KCa4(Si4O10)2(F,OH)・8H2O |
決してうおのめいしと読んではならない。 本鉱は無色〜白色の錐状の結晶を示すことが多く、 これを上から見ると へき開面が真珠光沢を帯び、ぼうっと光って見える。 これを魚の眼に喩えて名前がついたものである。 写真は白色の束沸石Stilbiteに 淡いグリーンを帯びた魚眼石が組み合わさった 美しい標本である。 日本でも産出し、愛媛県槇野川産はかなりの美品が知られる。 |
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鉄電気石 Schorl NaFe3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4 |
電気石Tourmalineは10種類ほどの鉱物のグループ名である。 電気石というとあまりなじみがないが、 トルマリンといえば宝石として知らない人はいないだろう。 実は、ここにちょっとした落とし穴がある。 写真には強い光沢と条線のある真っ黒な結晶が写っている。 5センチ大の単結晶で、手にずしりと重い。 これがトルマリンである、と言うと普通の人は首を傾げるだろう。 本鉱は鉄分を多く含む電気石で、鉄電気石(Schorl)という。 トルマリンの仲間ではもっとも普通に産する種類で、 ビクトリア朝には喪服用の宝石として加工されたりもしていたそうだが 現在は宝飾品としての需要はない。 デパート等で「トルマリン原石」として売られているもののほとんどは、 この鉄電気石の標本的価値もない程度のブツなのである。 むろん鉄電気石とてトルマリンの一種であるからウソではない。 ウソではないが、宝石のトルマリンとはまったくの別物である。 宝石の世界でトルマリンと呼ばれているものは、 リチウムを主成分とするリチア電気石Elbaiteや マグネシウムを主成分とする苦土電気石Draviteなどである。 いずれも鉄電気石同様に柱状の結晶となり条線を示す。 ただし透明度が高くさまざまな色彩を帯びているので 宝石として利用されているのだった。 ところでそういった透明な結晶は誰の目にも美しいものだが、 |
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方鉛鉱 Galena PbS |
巷には教材用の鉱物標本というものがある。 ワクワクしながらフタを開けてみると、 そこには図鑑で見られるような結晶標本の姿はない。 ゴロッとした普通っぽい石ころが番号シールを貼られ、 パーテーションの中に無造作に並べられているだけである。 無理もない。資源として採掘されている鉱物のほとんどは、 そういった「鉱石」なのである。 方鉛鉱は先に紹介した閃亜鉛鉱の標本のような、 ずしりと重みのある角張った結晶が人気の高い鉱物である。 同時に、鉛Pbの原料として広く採掘されている鉱物資源でもある。 ここでは福井県産の「鉛の鉱石」としての方鉛鉱を紹介してみた。 なんてことない2センチ大の石ころだが、 拡大写真にはちゃんと小さいながらも四角い結晶が写っている。 但し方鉛鉱は閃亜鉛鉱と共産することが多いため、 この鉱石のどの部分が方鉛鉱なのかは 解析してみないとわからない。 一見ごく普通の岩石をルーペで眺めて楽しむのも、 また鉱物趣味のひとつである。 普段見過ごしているような何かと出会うために。 |
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雪花石膏 Alabaster CaSO4・2H2O |
雪花石膏とは風情のある名前である。 英語ではアラバスターAlabasterと呼ぶ。 以前、手塚治虫が作中の透明人間に この名前を用いていた記憶がある。 さて石膏Gypsumとはすなわちあの石膏だ。 型をとったりナポレオンの頭を作ったり 折れた腕を固定したりするアレである。 科学組成的には含水硫酸カルシウムの鉱物になる。 上のような用途には、加熱してこの水分をとばしたもの (焼石膏)が使われている。 焼石膏は粉状だが、 水を加えると再び固化して石膏になるので この性質を利用しているのである。 鉱物としての石膏はさまざまな形で産出する。 このうち、細かい粒子が緻密な塊状になっているものを 特に雪花石膏と呼ぶのである。 その優美な質感を愛され、 ヨーロッパでは古くから彫刻や装飾に用いられてきた。 肌理の細かさが美しいこの標本は秋田産である。 |
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藍晶石 Kyanite Al2SiO5 |
珪酸アルミニウムの鉱物、藍晶石は 非常に美しい透明感のある藍青色の結晶を示す。 良質のものは宝石としてカットされるが、 標本市場ではひび割れやクラック(傷)のないものは まずお目にかかれない。 どうも低温高圧の条件で生成される際に、 そのようなひび割れを起こしやすいらしい。 結晶は細長い柱状をなす。 この標本は結晶の薄片である。 割れた雲母のようなこの形からもわかるように、 柱と平行に完全なへき開(割れやすい方向)がある。 藍晶石はこの柱に平行な向きでは柔らかく、 ナイフで容易に傷がつく。 この方向での硬度は4.5くらいだ。 一方、柱を横に切る方向では水晶なみの硬度7を示し、 もちろん普通のナイフでは歯が立たなくなってしまう。 こういう性質を硬度の異方性と呼び、 藍晶石の大きな特徴となっている。 |
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カバンシ石 Cavansite Ca(VO)Si4O10・4H2O |
白い沸石の上に可憐な青い花が咲いている。 堀秀道「楽しい鉱物図鑑2」の写真を見た時から気になっており、 くだんの堀先生のお店で実物に出くわした際 一も二もなく購入してしまった。 この標本は図鑑とまったく同じ産地のものであり 地域的にはごく限定されているようだ。 にもかかわらず現在の市場価格はそう高いものではない。 それなりの産出量があるのだろう。 インド産の何だかインドっぽい名前の鉱物だが 記載されている原産地はインドではなくアメリカ・オレゴン州である。 名前の由来は主成分カルシウム・バナジウム・シリコンの 頭文字を繋げたものなのだった。 鮮やかな発色はバナジウムのためであるとされる。 |
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水亜鉛銅鉱 Aurichalcite (Zn,Cu)5(OH)6(CO3)2 |
珪孔雀石の項でも述べたように、 銅は鉱物の発色に深い関わりのある金属だ。 水亜鉛銅鉱は銅や亜鉛の鉱床に 比較的普通に見られる銅の花である。 但しこういう場所には似たような顔をしたデビル石Devillineや サーピエリ石Serpieriteも産出するので 鑑定には注意を要する。 本鉱のように、ある鉱物が何らかの作用を受けて変質し 生成するものを二次鉱物と呼ぶ。 この標本はぱっと見蛍光グリーンの芝生の様を呈している。 ルーペで仔細に眺めると 微細な針状結晶の集合であることがわかる。 産状としては鱗片状結晶の方が一般的。 結晶には一方向に完全なへき開があり、 優美な絹糸光沢や真珠光沢を放つ。 |
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