Notes/4
輝コバルト鉱
Cobaltite





CoAsS
磁硫鉄鉱を主体とする母岩の上に、
5ミリ程の大きさの
銀白色の五角十二面体の結晶がひとつ、嵌め込まれている。
コバルトCoと砒素Asの硫化鉱物・輝コバルト鉱の結晶標本である。

この一見なんてことない標本に
私はなぜだか非常に心惹かれる。
ここでもうっかり3枚も写真を紹介してしまった。
コバルトという放射性元素に対する印象のせいかもしれない。
鉄腕アトムの兄弟(兄としている話と弟としている話がある)で
ウランの兄だし。

本鉱はコバルトの主要鉱石であり、
各地で採掘が行われている。
多くは塊状であり、結晶の状態で産出することは決して多くない。

ご覧のような銀白色の金属鉱物だが、
結晶によっては独特の赤味を帯びる。
写真1
写真2
写真3
孔雀石
Malachite






Cu2(OH)2(CO3)
こちらが本家本元の孔雀石である。
その色彩はマラカイトグリーンという色の名前にもなっているほど、
古くから親しまれて来た。
その採掘の歴史は紀元前4000年にさかのぼる。
かのクレオパトラは孔雀石の粉末を化粧に用いていたという。
世界最古のアイシャドウである。

発色の原理は銅サビの緑青と一緒で、
つまりこれも水亜鉛銅鉱同様、銅の二次鉱物だ。
化学組成的には含水酸基炭酸銅で、
銅鉱床の一番上に産出する。
従って銅山を掘ると最初に出てくる。
最初に出てくるということは要するに
掘り進めてゆくとそのうち出なくなる。
日本でもかつては各地の銅山で産出したが、
おおむね採り尽くしてしまっている。

写真は鉱物標本セットの中のひとつである。
基本的には国産標本ばかりなのだが、
本鉱だけはザイール(コンゴ)産であるゆえんだ。
写真1
苦灰石(白雲石)
Dolomite





CaMg(CO3)2
苦はマグネシア、灰はカルシウムを表わす。
つまり苦灰石というのは成分そのものの名前だ。

それにしても何やら印象の悪い和名である。
透明〜半透明、ガラス光沢や真珠光沢を放つ
なかなか清楚なたたずまいの鉱物なのに。
と思っていたら、ちゃんと白雲石という和名も別に存在していた。
しかしこれまた綺麗なようないんちきくさいような
何ともいえない名前ではある。
英名のドロマイトもなんだか泥臭い。
うるさいよ俺。

菱面体の結晶をするが、
結晶面は湾曲していることが多い。
硬度が3.5と柔らかいためカット石には向かない。
塊状のまま飾り石に用いられたりしている。
写真1
写真2
翠銅鉱
Dioptase





Cu6(Si6O18)・6H2O
こちらは美しい字面の名前の鉱物だが、
口に出すとたいてい水道工だと思われてしまうのが残念だ。

翠はひすいの翠であり、緑色を表わす。
その名の通り非常に美しい深い緑色を示す。
粒状ないし柱状に結晶し、
大きなものはエメラルドと間違われたりする。
実際のところ、現在採掘される天然エメラルドは
必ずと言っていいほどひび割れや傷があり
個人的には翠銅鉱の方が断然美しいと思う。
しかしもろくて欠けやすいため、
宝石としてカットされることはまずない。

ここでは微細な粒状結晶の集合した標本を紹介する。
大きい結晶とはまた違った
たおやかな色彩が楽しめる。
人気の高い鉱物である。
写真1
写真2
ハーキマー・
ダイアモンド
(石英)
Herkimer Diamond
(Quartz)

SiO2
ダイアモンドという名前がついているが、
但し書きをしたように水晶である。
水晶なのだが、非常に完成された結晶形なうえに
びっくりするほど透明感と輝きが強い。
いわば天然の模造ダイアモンドなのである。
このような水晶が生成される理由については、
いまだ詳しい研究はなされていないらしい。

アメリカ・ニューヨーク州ハーキマーの産なので
こういう名前で呼ばれるようになった。
写真1
写真2
滑石
Talc










Mg3Si4O10(OH)2
滑石はモース硬度1の鉱物として知られる。
モースの硬度計は滑石からダイアモンドまで
10種の硬さの鉱物を順番に並べて基準としたものだ。
それぞれの基準鉱物で傷がつくかつかないかで判断する。
例えば先にあげた翠銅鉱は硬度5で、
硬度5の基準鉱物である燐灰石とほぼ同じ硬さだということになる。
これは非常にアナログな数値であり、
2種の間くらいだなーという場合は0.5とか1/2にしてしまう。
4.8とか7.2とかいう半端な数字はない。

これは、厳密に物理的な立場からいえば
10種の石の差は決して等間隔ではないからだ。
硬度5の燐灰石と硬度10のダイアモンドの
実際の物理的硬度の差は倍どころの騒ぎではすまない。
なにしろ硬度9のコランダムでも
ダイアの半分程度なのである。
まあ、相手は地球上で最も硬い物質なのだから仕方がない。

そんな非科学的な数値を導入してよいのか、と
お怒りの向きもあるだろうが
鉱物の分類の便宜上は十分有効なのである。

硬度1だけあって滑石は非常に柔らかい鉱物だ。
爪で簡単に傷がつく。
ちなみに爪の硬度は2.5で、
硬度2の石膏には傷をつけられるが
硬度3の方解石に傷をつけることはできない。

印材や製紙等に広く用いられている。
写真1
クロム鉄鉱
Chromite




Cr2FeO4
クロムの主要鉱石である。
その性質上緑色の灰クロムざくろ石(ウバロバイト)を伴うことが多く、
そうするとそれなりにカラフルな標本にもなる。
しかしここで紹介するのは
コールタールを塗ったような真っ黒で艶やかな標本である。

化学組成的には
磁鉄鉱のFe2がクロムCrに置きかえられたものに相当するが、
磁鉄鉱と違って結晶することが非常に少ない。
普通は写真のような金属光沢を放つ塊状で産出する。
紹介した理由は、まったくこの
ギラギラした金属光沢に惹かれてのことだ。

写真の北海道の他、日本各地に分布している。
写真1
コバルト華
Erythrine





Co3(AsO4)2・8H2O
コバルトの華とはよく言ったもので、
本鉱はコバルト鉱床の上に咲く赤紫色の華である。
孔雀石や水亜鉛銅鉱と同じように、
コバルト鉱が分解して出来る二次鉱物なのだ。
従って、この華が咲いていれば
その下にはコバルト鉱が埋まっているということになる。

産状は標本のような板状結晶から粉状、皮膜状まで様々。
鉱物には様々な色彩があるが、
この手の赤紫色はあまり見かけない。
灰色の母岩から小さな薄板がもりもり生えている様子は
鉱物というよりは植物的な何かを思わせる。

硬度が1.5から2.5とたいへんに柔らかいので、
取り扱いには注意が必要。
写真1
写真2
月長石
Moon Stone








K(AlSi3O8)
6月の誕生石・ムーンストーンの原石である。
月長石の名の通り、分類的には長石グループに属する。
ある決まった方向に
青白い月光のような輝き(シーン)を放つので
この名前がついた。

長石はカリ長石と斜長石に分かれ、
この2種がさらに総勢20種ほどに分類されるのだが
そのへんの説明は省かせて頂く。

月長石はカリ長石の一種、
正長石(オーソクレース)の仲間だが
ナトリウムを主成分とする曹長石(アルバイト)の組成も
併せ持っており、
鉱物の内部でこれら二種類の長石の構造が層状をなしている。
この境目で光の反射屈折が生じ、
シーン効果を醸し出しているのだという。

そんな理屈はともかく、
月長石の幻想的な輝きと透明感は
古くから人々の尊敬を集め、崇拝の対象となってきた。

ここでは2枚の写真を用意したが、
果たしてこの石の魅力が伝えきれているかどうか。
写真1
写真2
黄鉄鉱
Pyrite








FeS2
写真には黄金色の立方体が写っている。
工業製品でも加工品でもなく、
これが黄鉄鉱という鉱物の自形結晶なのだ。

この標本は分離結晶だが、
機会があればぜひ母岩つきの標本をご覧頂きたい。
ごく普通の岩体から
突然光り輝くシャープな立方体が生えているさまは
一種冗談のような風情があり、思わず目を疑う。

黄鉄鉱は世界中に幅広く分布する。
結晶はシャープな5角12面体や立方体を示し、
美しい光沢ともあいまって金属鉱物標本の王者の地位を守っている。
12面体の5角形の面は俗に黄鉄鉱面(パイライトヘドラ)と呼ばれ、
この鉱物の広く知られた顔だ。
box5で紹介する赤鉄鉱と並んで
アクセサリーとして売られていることも多い。

標本としてはペルー産やスペイン産が多く出回っているが、
何しろ産出量の多い鉄鉱石だけに
日本でも各地でかなりの美品が産出している。

他の鉱物と一緒に産出することも珍しくなく、
ラピスラズリの表面に散る金色の星は本鉱に他ならない。
写真1
写真2
写真3
写真4