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赤鉄鉱 Hematite Fe2O3 |
鉄の酸化鉱物である赤鉄鉱の銀白色の光輝は、 黄鉄鉱の金色のそれと好一対だ。 だのになぜ白鉄鉱や銀鉄鉱ではなく赤鉄鉱なのか。 それは、この鉱物の「本当の色」が赤いからである。 標本は火山ガスから直接結晶化したタイプで、 鏡鉄鉱 Specularite の別名の通り 古くは鏡として使われたほど反射が強い。 この他にも外観的には黒っぽいタイプや赤褐色のタイプがあるが、 これらの標本を白い陶製の板(条痕板)にこすりつけると いずれも赤褐色の線が描ける。 このような色を条痕色と呼び、 鉱物分類の重要なファクターのひとつである。 つまり、赤鉄鉱本来の色は赤褐色なのだ。 その証拠に、細かくしてゆくとすべて赤褐色の粉末になる。 このような粉末は紅がらと呼ばれ、 辰砂と並んで日本では古くから赤色の顔料として用いられてきた。 英名のヘマタイトもギリシャ語の「血」を表わす hemaに由来するものである。 黄鉄鉱のような立体的な結晶形はなく、 標本のような薄板状もしくは葉片状になることが多い。 その重厚な金属光沢のため人気が高く、 研磨されたものがアクセサリーとして売られている。 |
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灰重石 Scheelite Ca(WO4) |
かいじゅうせきと読むその発音が好きだ。 灰はカルシウムCa、重石はタングステンWの鉱物であることを表す。 その名前はダテではなく、 見た目のはちみつ様の透明感とは裏腹に むやみに重たい鉱物である。 水を1とした時の比較の重さを表わす比重は 5.88〜6.10にも及ぶ。 同じ体積の水の約6倍の重さがあるのだ。 3キロの重さのペットボトルを想像してみて頂けばよろしい。 ちなみにほたる石の比重は3.01〜3.25程度である。 もっとも金属鉱物だと思えば比重5や6クラスのものは珍しくなく、 方鉛鉱では7.4〜6に及ぶし黄鉄鉱でも5くらいにはなる。 灰重石の場合、見た目が金属的でない分 手にずしりと重く感じられるのだと思う。 透明度の高いものや合成されたものが カットされ宝石として並んでいるが、 硬度がやや低いため傷がつきやすい。 |
写真1 写真2 |
磁鉄鉱 Magnetite FeFe2O4 |
天然磁石として名高い鉱物であるが、 実際には磁力は産地や産状によってさまざまである。 落雷などの影響で磁場の方向が揃うと強力になり、 かつて諸葛亮孔明が用いた「指南車」は 本鉱の磁力を利用した方向指示器であったと言われる。 英名マグネタイトも磁石を意味するMagnetに由来するが、 他にマグネシウムの鉱物の マグネサイト(菱苦土石)というのがあって少々まぎらわしい。 しかし鉱物資源的には磁石の原料というよりも 赤鉄鉱と並ぶ主要な鉄鉱石という扱いを受けている。 日本刀が砂鉄を精錬したものであることは有名だが、 砂鉄はすなわちこの磁鉄鉱の微細な結晶が 分離して砂に混じったものである。 従って磁性があり、 小学校の頃に実験で用いた記憶のある人も多いだろう。 結晶は写真のようなシャープな正8面体を示す。 |
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リチア電気石 Elbite Na(Li,Al)3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4 |
鉄電気石の項で触れた、これがリチア電気石である。 結晶のタイプが鉄電気石と同じなのがおわかり頂けるだろうか。 色合いには写真のように赤系統のものと 緑系統のものがあり、 赤系統のものは特に紅電気石 Rubelite と呼ばれていたりする。 ところで写真の標本は上と下は赤いが、 中央に黄緑色の部分がある。 これはリチア電気石では珍しい現象ではない。 中には中央部と周辺部で色が異なっているものもあり、 輪切りにするとちょうどスイカの断面のような色調になっている。 このようなものをウォーターメロン・トルマリンと呼び、 スライスして研磨されたものが売られている。 母岩つきと分離結晶標本との値段がずいぶん違う鉱物である。 写真のように内部にクラックのある単結晶の標本は 決して高価なものではない。 「トルマリンの原石」が欲しいなら、こちらをおすすめしておく。 |
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紅鉛鉱 Crocoite PbCrO4 |
名高いタスマニアの紅鉛鉱である。 産地が限られている上に標本市場での人気が高く、 しかも非常にもろくて欠けやすいために 美品は安価とはいえない。 写真の標本は予算の範囲内で購入した かなりのお買い得品で、 色鮮やかではあるが結晶が小さく短い。 輸送中に破損してしまうことも多く、 ショップの店主は 「これをオーストラリアから運ぶのは なかなか大変なんですよ」と 遠い眼をして語ってくれた。 鮮やかなバーミリオンレッドはクロムによる発色。 |
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ダンブリ石 Danburite CaB2Si2O8 |
ダンブリいしではなくダンブリせきと読む。 鉱物名の「石」はほたる石等いくつかの例外を除いて 音読みしておけばまず間違いはない。 もっとも鉱物学における和名は決して一定してはおらず、 モナズ石なども「せき」としてある図鑑もあれば 「いし」としてあるものもある。 混乱を招くため学術的には英名の方を使うのが普通だ。 それにしてもダンブリというのは ドンブリにも似た妙な語感であり、 この宝石にもカットされる美しい鉱物にはどこかそぐわない。 発見地であるアメリカ・コネティカット州ダンブリーに 由来するものだが、 だったらダンブリー石でいいと思う。 結晶は写真のように特徴的な長柱くさび状を示す。 水晶のように先端が尖っていない点に注目して頂きたい。 無色のトパーズに似るが、 ダンブリ石にはへき開がない点で区別する。 日本でも宝石質の美品を産出する。 |
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輝水鉛鉱 Molybdenite MoS2 |
box.2のモリブデン鉛鉱の項で述べた、 これが輝水鉛鉱である。 アルミ箔のような質感がおわかり頂けるだろうか。 硬度1〜1.5と滑石もびっくりの柔らかい金属鉱物で、 指で押すと簡単にへこむ。 小馬木鉱山はさまざまな図鑑で紹介されている有名産地だが、 現在は閉山しているとのこと。 |
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藍銅鉱 Azurite Cu3(CO3)2(OH)2 |
深い藍青色が非常に美しい銅の二次鉱物。 細かくするともっと鮮やかな青色を示し、 日本画では岩絵具として利用されてきた。 実はこの写真を撮影した後にうっかり手を滑らせ、 標本を落としてしまった。 母岩を含め3センチ大の小さなしろものだったのである。 落としたといっても台の上から下へ、 わずかに数センチの高さだったが 運悪く標本自体の重みで結晶が1本ぽっきり折れてしまった。 慌てて拾い集めようとした時、指先に鋭い痛みが走った。 破片が左手の人差し指に刺さったのである。 断口の切れ味は鋭く、みるみる血が出て来た。 凄いなあ、となんだか感心して見とれてしまったものだ。 身体に藍銅鉱を埋めこんだ男も悪くないと しばらく放っておいたのだが、 作業をすると痛むので泣く泣く毛抜きと針で除去手術を行った。 指先から出て来た0.3〜0.5ミリ単位の破片は 実に鮮やかなブルーに輝いており、 なるほど絵具の材料であると納得した次第である。 産出が少ないため高価であるが、 本鉱の美品であればそれなりの大枚をはたいても 惜しくないと思っている。 しかし幸か不幸か、 今のところ納得できる標本にはまだ出会えていないのだった。 |
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硫酸鉛鉱 Anglesite Pb(SO4) |
独特の質感で、標本界の人気もののひとつである。 大きな単結晶や群晶標本には腰が砕けるような値段がついている。 この標本は2センチ弱の大きさで2000円という廉価品だったので、 ひとつ手元に置きたいと思って購入したものである。 それでも雰囲気のある美しい透明感は 十分に味わうことができる。 無色の他、菫色から黄色、灰色、緑に黒と さまざまな色合いの結晶がある。 |
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桜石(菫青石仮晶) Cerasite |
写真の桜の御紋はまったくの自然の造型である。 これは岩石中に出来た菫青石 Cordierite という鉱物の 六角柱状の結晶が、その後の何らかの作用を受けて 絹雲母や緑泥石といった他の鉱物に 変質してしまったものである。 このように、結晶の形はある鉱物なのに 中味は違う鉱物になっている状態を仮晶と呼び、 鉱物界では広く見られる現象である。 で、問題の菫青石の六角柱状の結晶というのは 単結晶ではなく、いくつかの結晶が組み合わさった形なのである。 そのそれぞれの結晶の間に包有物(インクルージョン)をはさむため、 断面に線の模様が現れるという寸法だ。 これが桜の花びら状に見えているのである。 雅やかな桜石は京都を代表する石であり、 産地の一部は天然記念物に指定されている。 |
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輝安鉱 Stibnite SbS |
box2で紹介した輝安鉱の、 これは中国産の単結晶標本である。 ルーマニア産のものとはまた違った美しさがあるので ここに収録した。 かつて愛媛県市ノ川で産出した結晶は、 どちらかといえばこちらに近いものである。 やや虹色を帯びた鋭利な金属光沢、 シャープな条線。 やはり鉱物標本の雄と呼ぶにふさわしい逸品である。 |
写真1 |