Notes/6
クンツァイト
(リチア輝石)
Kunzite(Spdumene)








LiAlSi2O6
輝石(パイロクシーン)と呼ばれるグループがある。
分類としては珪素と酸素を主体とする珪酸塩鉱物に属し、
岩石を構成する造岩鉱物として重要な位置を占める。

というような話はともかく、私が不思議でならなかったのは
輝石というそのネーミングだった。
輝石を代表する鉱物はbox.8に出てくる普通輝石だが、
一見して別に輝いているという印象はない。
この名前については普通輝石の項でまた改めて述べようと思う。
ここで全部話すと後で書くことがなくなるからである。

さて輝石グループの一員で、
リチウムをその主成分とするリチア輝石(スポデューメン)は
輝石の名に恥じないガラス光沢を放つ鉱物だ。
世界的に広く産出し、日本でも採れる。
無色透明をはじめさまざまな色彩変異があり、
このうち特にピンク系のものをクンツァイト、
グリーン系のものをヒッデナイト(Hiddenite)と呼び、
カット・研磨されて宝飾品に用いられている。

ここに紹介するのはアフガニスタン産のクンツァイトの原石である。
産出量が多いため、原石は比較的安価で手に入る点は
水晶やほたる石に同じ。
写真1
写真2
針ニッケル鉱
Millerite















NiS
針状の結晶を示す鉱物は少なくない。
box.2のルチル・クオーツの項では
水晶中のルチルの針状結晶を紹介した。
ここに示すのはニッケルNiの硫化鉱物・
針ニッケル鉱の針状結晶の標本である。

針状だから針ニッケル鉱とは判りやすいが、
鉱物の結晶形は規則的かつ気まぐれである。
本鉱もまれに針状以外の結晶で産出することがある。
もちろんその場合も針ニッケル鉱と呼ばねばならないわけで、
少々具合はよろしくない。

ところでいったい見た目がまったく違うものを
どうして同じ鉱物だと断定できるのか、というのは
われわれ素人がぶつかる疑問のひとつである。

素人として最初に思いつくのは、
分析すれば化学組成が一緒だからという解答だ。
同じ鉱物は同じ化学式で表わされる。当り前である。
ところがギッチョン。逆もまた真ならず。
同じ化学式で表わされる鉱物が
同一種だとは限らないのである。

有名な例を引けば、世界で一番固い鉱物・
ダイアモンドの化学式はCである。
そして、真っ黒で柔らかい鉱物・
石墨の化学式もまたCなのだ。
この2種は炭素という同じ元素で構成されているが、
その結晶構造がまるっきり異なるのである。
要は分子の並び方が違うと思えばよい。
このように、同じ成分でできていながら
結晶構造が違う関係を同質異像と呼ぶ。
鉱物界では珍しい現象ではない。

これを逆に考えれば、針状だろうが塊状だろうが
化学組成と結晶構造が一致していれば、
つまりそれは針ニッケル鉱だと言えることになる。

この標本は非常に微細なもので、
ぱっと見はキラキラ光る埃のようにしか見えない。
ミクロの世界の美しさである。
写真1
写真2
ベニト石
Benitoite




BaTiSi3O9
アメリカはカリフォルニア州San Benitoの名産品である。
この為ベニト石の名がある。
屈折率の高い、非常に美しい鉱物だが
大粒の結晶が稀なためにカットされることは少ない。

原産地のサンベニートでは白色のソーダ沸石の中に
次に紹介する海王石などを伴って産出する。
白いソーダ沸石の中に
青色を帯びた独特の三角板状の結晶が立っているたたずまいは
一幅の画のようで美しい。

紫外線下で見事な蛍光を発するのも本鉱の特徴である。
写真1
写真2
海王石
Neptunite






KNa2Li(Fe,Mn,Mg)2Ti2Si8O24
そういう次第で
こちらもソーダ沸石の雪原から
黒色柱状のシャープな結晶が生えている同産地の標本である。
ローマ神話の海の神、
ネプチューンの名を冠する海王石だ。

鉄電気石の項でも述べたように、
私はこの手のストイックな結晶に弱い。
この写真では判りにくいが、
結晶はこころもち深い赤味を帯びている。
黒地に映えるダークレッドの光輝は、
殺し屋的ダンディズムを感じさせる。

非常に複雑な化学組成を持つ。
資料にはイオン価も記されているが、
HTMLでの表現がややこしくなるため
ちょっと乱暴だが割愛した。
赤の発色はマンガンの量に関係しているらしい。
写真1
写真2
チンワルド雲母
Zinnwaldite





 
KLiFeAl(AlSi3)O10(F,OH)2
チンワルドは「錫の国」という意味で、
原産地であるチェコの地名である。

雲母といえば黒雲母と白雲母が有名だが、
他にも本鉱をはじめ、真珠雲母や金雲母、
リチア雲母や絹雲母などさまざまな種類があるグループで
それぞれ化学組成が異なる。
チンワルド雲母はリチウムと鉄を主成分とする雲母だ。
写真の標本は岐阜県蛭川村産で、
ここは滋賀県田ノ上山と並んで世界的に有名な本鉱の産地である。

なお、田ノ上山では本鉱によく似た
淡い赤紫色を帯びた鉱物を産出した。
これはチンワルド雲母の鉄を
マンガンに置き換えた新鉱物であることがわかり、
鉱物学者益富壽之助博士に因んで
益富雲母(Masutomilite)の名が付けられている。
写真1
オパール(蛋白石)
Opal






SiO2+nH2O
box.1ではオーストラリア産の
ベレムナイト・オパールを紹介した。
こちらはメキシコ産である。
火山岩の中に透明な一見樹脂状の物質が埋まっていて、
青や緑、赤色のさまざまな虹のような遊色を示している。
不思議な情景だが、これがメキシコにおけるオパール原石の
もっともポピュラーな産状なのである。

砂岩の中にゆっくりと時間をかけて生成する
オーストラリア産とは異なり、
メキシコでは溶岩中での急速な鉱化作用で生じる。
このため、より派手で大柄な遊色があらわれるのだそうだ。
しかし安定度はオーストラリア産よりやや低く、
乾燥してひび割れを起こしやすい。

写真ではマトリックスの一部に卵の白身状のものが見える。
蛋白石という日本名が納得できる眺めである。
写真1
写真2
写真3
安四面銅鉱
Tetrahedrite






(Cu,Fe)12(Sb,As)4S13
四面銅鉱はその名の通り正四面体に結晶する鉱物だ。
英名のテトラヘドライトも同様の意味である。

化学式を見ると(Sb.As)という部分がある。
これはこの2種類の元素を任意の割合で含むという意味で、
先に書いてある方がより割合が高い。
この式にあるように、アンチモンSbの割合が
砒素Asのそれよりも高いものを「安」四面銅鉱と呼んでいる。
輝安鉱の項でも書いたように、安はアンチモニーを表わす。

同様に砒素の方が多い四面銅鉱も存在しており、
こちらは「砒」四面銅鉱Tennantiteと呼ばれる。
両者の割合は色々で、中間的なものもあり
肉眼での区別は不可能だ。

全面が正三角形で構成される結晶は鋭い金属光沢を放つ。
ここに示したのは安四面銅鉱と方鉛鉱、
黄鉄鉱の結晶が群生する美しい標本である。
写真1
写真2
写真3
方鉛鉱
Galena



PbS
上と同じ標本から、
方鉛鉱の結晶をクローズアップしてみた。
独特のややフラットな鉛銀灰色は重厚感があり、
鉛の鉱物だということを実感させてくれる。

box.3でも述べたように、方鉛鉱の結晶標本は非常に人気が高い。
私自身も憧れの品ではあるのだが、
手応えのあるサイズの結晶になると少々値が張る。
本コンテンツはいくつかの例外を除き
基本的に4ケタ以下の値段で入手できるものを紹介しているため、
ちょっと予算的にオーバーしてしまうのだった。
写真1
琥珀
Amber













こはくは鉱物ではない。
木の樹脂の化石である。「木の樹脂」って意味ダブってるな。
言わば松やにが固まったものと思えばよい。
こういう言い方をすると聞こえは悪いが、
樹木の幹の傷から染み出た樹脂が
夕映えにも似た輝きを帯びてきらめく様はなかなか美しいものだ。
これが地学的な単位の時間を経て固化したものが、
こはくと呼ばれる宝石になるのである。

元々が樹脂なため、持ってみるとびっくりするほど軽い。
比重は1.08。たいてい気泡を含んでいるため、
基本的に水に浮く。

琥珀色というのはウイスキーの売り文句でよく聞く言葉だ。
深みのあるその色合いは、吸いこまれそうな美しさを湛えている。

樹脂だった段階で昆虫類を取り込んで
そのまま化石化してしまうことがある。
写真1、2のドミニカ産はこのタイプに該当する。
小さい甲虫の一種が
蜜色の世界に閉じ込められているのがお分かりだろうか。
それこそ気の遠くなるような時間。

世界的にはバルト海沿岸産がもっとも有名で、
宝飾品の他パイプなどに利用される。
日本では岩手県の久慈地方に良品を産する(写真3)。
同地方には国内唯一の琥珀専門の博物館もあるくらいだ。

琥珀は磨いたり使い込むことで輝きと味わいを増す。
写真3のような未研磨の原石は非常に安価である。
自分で磨いて宝飾品を作るのも悪くない。

なお、厳密には同じ樹脂の固化したものでも、
1000年〜2000年未満のものはコーパルcopalとして区別する。
それを上回る、第三紀以来の歴史を持つもののみを
アンバーと呼んでいる。
写真1
写真2
写真3
バラ輝石
Rhodonite








CaMn4(Si5O15)
輝石と名がついているが、
いわゆる輝石グループに属する鉱物ではない。
命名された頃は輝石の一種だと思われていたのだが、
その後の研究で違うことが明らかになってしまったのである。

このため、手元の標準原色図鑑「岩石・鉱物」(昭和42年初版)では
英名を取って「ロードン石」という名前が提唱されている。
しかし明治時代から使われた名称はすっかり定着しており、
結局いまだにバラ輝石の名が流通しているのだった。
定着するのも無理はない。
本鉱は日本では非常に顔なじみの鉱物なのである。

地質というのは地球の場所によってそれぞれ異なるものだ。
従って、ある鉱物が某国では普通にゴロゴロ産出するのに
他の国ではまったく産出しない、というケースは珍しくない。
むしろ水晶や黄鉄鉱のように、
世界各地どこででも見られる方が珍しいとも言える。

そんな中、マンガン鉱床の多い日本列島は
マンガンを含む鉱物は比較的得意にしているのである。

本鉱はマンガンの鉱石として採掘される他、
美しいものは彫刻や装飾用にも用いられている。
英名もギリシア語でバラを表わすRhodoに由来するものである。
写真1