REPORT
14回国際ミネラルフェア
(平穏な日常より抜粋)


先日、都内で行われた国際ミネラルフェアを覗いて来た。

国際という接頭辞はダテではない。
会場である新宿スペースセブンには、
国内外の業者がところ狭しと化石鉱物宝石貴石を並べている。
129を数える出店のうち約半分が海外の業者だ。
無国籍フリーマーケット状態である。

いかに店舗数が多かろうと、
ジャンルはとりあえず石関係に限定されている。
このためモノは相当数のショップでダブってしまう。
お目当ての石をゲットするためには衝動買いは禁物だ。
必ずや他の店でもっと状態の良い品に
よりお求めやすい値札が付いているのを発見し、
切歯扼腕する破目になること必定。
といって相手がレア物の場合、
うかうかしているとあっという間に売約済みになる。
なるべく迅速に行動するが吉!

しかし初日の午前中は平日にもかかわらず満員御礼で、
店舗間の自由な通行は困難であった。
まあ私の場合別にレア物に興味はない。
とりあえず良い品を良い値段で手に入れられればオッケー。
見やすい辺りからさっさと見て回った。

面白いのはやはり普段お目にかかれない海外業者の店だ。
とあるドイツの業者の店で標本を見ていたら声をかけられた。
「May I Help You?」
おお、英語だ。
助けてもらうことは別にないが、
だからっつってノーサンキューではこちらが追い払われてしまう。
仕方がないので曖昧なボディランゲージでお茶を濁し、
標本に夢中になっている振りをした。振りをしてどうする。

ところで海外業者の店舗の商品には、
当然ながら日本語のラベルはついていない。
従って鉱物の英名がわからないと少々途方に暮れることになる。
とある店で「Cuprite」と書かれたラベルの鉱物を見かけた。
赤銅鉱であることを思い出したのは20分くらい後のことである。

件のドイツ業者の店で標本を見る振りをしているうちに、
ひとつラベルのない鉱物があるのに気が付いた。
が、母岩からのぞく強い条線のある
透明な六角板状の結晶には見覚えがある。
硫酸鉛鉱だ。

「水晶散歩」でも紹介ずみだが、
硫酸鉛鉱は非常に美しく人気の高い鉱物である。
標本の結晶は完全形ではないが淡い飴色を帯びている。
念の為持ち上げて重さを見ていると、先程の店員が飛んできた。
「May I help you?」
今度は大丈夫、あんたに聞きたいことがある。
私は結晶を指差して尋ねた。
「Anglesite?」
幸い「楽しい鉱物図鑑」のおかげで硫酸鉛鉱の英名は覚えていたのだ。
堀先生ありがとう。

「Yes,Anglesite」
店員は頷くと、母岩の方の小結晶群を指差して付け加えた。
「Anglesite,and Cerrusite」
セルサイトは白鉛鉱だ。硫酸鉛鉱と共産しやすい鉱物である。
白鉛鉱と硫酸鉛鉱の共産標本といえばなかなかの逸品。
私は懐具合を思い浮かべながら最後の質問を発した。
「How much?」

彼が口にした値段を聞き、即座にOKを出した。
国内のショップではまず絶対に入手不可能な価格だったのである。
交渉に馴れた人ならここでもう少し値切ったかもしれない。
しかし何分この日はこれが最初の買物だったし、
向こうの言い値でも十二分な掘り出し物だ。

碧い眼の兄ちゃんは標本を丁寧に箱に詰めると、
ちゃんと鉱物名と産地を書き添えてくれた。
そして仏頂面のまま言ったものである。
「Thank you!」

思わぬ収穫に気を良くした私は、
次なる獲物を求めて再び会場内をさまよい出したのであった。
寝てないにもかかわらず。

長くなったので続きはまた次回。




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第14回国際ミネラルフェア(承前)。

前回ジャンルが限定されていると記したが、
だからといって売場自体が地味な訳ではない。
考えてみればおよそ天然産のありとあらゆる無機物が並んでいるのだ。
先に述べた化石鉱物宝石の類はもちろん、
サンゴや真珠等の有機物も売られている。
アクセサリーやパワーストーンを売る業者もいて、
会場の空気はかなり混沌としていた。

スペインのある業者のブースは、まるごと黄鉄鉱だった。
確かに黄鉄鉱といえばスペイン産が有名なのだが、
他にはまったく何も売っていないのだ。
小さい立方体の分離結晶から、
双晶になっているものやら母岩付きのものまで
とにかく黄鉄鉱屋なのである。
3畳くらいの売場全体が黄鉄鉱の結晶一色というのは壮観だ。
そんなんで商売になるのか他人事ながら不安になるが、
結晶のシンプルな美しさと安さに惹かれてか
客足が途絶えることはなかった。

隕石専門の店なんてのも出ていて、
非常に美しいアエンデ隕石の研磨片が売っている。
喜んで見に行ったらとんでもない値段がついていた。

国籍も専門も違うショップが軒を連ねている以上、
価格に関しては相場はあってなきが如き状態になる。
私がアメリカ人の爺さん2人組から買い求めた
タスマニア産の美しい紅鉛鉱は、
他の店でほぼ同じ物が5〜6倍の値で売られていた。
そんな状況なので、カタコトの英語で堂々と値下げ交渉をする客も多い。
とあるショップで隣にいたお兄さんは、
3万円超の値札の品に対して
「トゥエンティ・サウザンド・ィエーン」と連呼した挙句、
2万円ちょっとまで値切り倒した。
店員は肩を竦めて
「It's a good price!」と慨嘆し、
それでもきちんと品物を梱包していた。

海外業者の出店の周りには、
通訳もしくは代わりに交渉してくれる人もウロウロしている。
自信のない場合は彼等に頼るのも手だが、
残念ながら信用できるとは限らない。
大体は私程度のうろんな英語で事足りるので、
自分で直接交渉するに如くはない。

但し、値札はたまにUSドルで記されているので注意が必要。
数千円程度の標本なら間違えることはないが、
物によっては6〜7ケタの値段に達している場合もある。
ドル立てだとこれが4〜5ケタになるので、
「安っ!」と思ってうっかり手を出すと悲しい結果を招く。
数字の前の記号を確認しよう。

ちなみに値札はドルでも結局日本円で買うことになる。
だったら最初から換算したプライスをつけてくれよ。

ちょこちょこ買物をしつつ、会場をさっさとほぼ3周した。
もちろん全てのショップを見た訳ではない。
今回の目的は鉱物標本なので、化石や宝石のブースはスルーした。
時間が許せばじっくり見たいところだが、
どうせ買う気はない。
予算が簡単にオーバーしてしまうし、
これらの品々は真贋の見極めが難しいのである。
特に化石は本物自体が補修されているのが普通な上に、
非常に精工な模造品が広く出回っている。
素人目にはどうにも購入に踏み切れないのであった。

できれば期間中にもう一度足を運びたかったが、
その時間は取れなかった。
来年は5月17〜21日の開催になるらしい。

赤銅鉱の小さな標本を買った店のフランス人の女性店員は、
にっこり笑って言った。
「See you next year!」

覚えてるつもりか?

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