REPORT
15回国際ミネラルフェア
(平穏な日常より抜粋)


例によって第15回国際ミネラルフェア探訪記。

東京における大規模なミネラルショーは
6月の新宿と12月の池袋である。
今回5月に繰り上がったのはW杯のせいであり、
会場最寄駅である大江戸線都庁前駅の売店には、
サッカーボールと共にWeLcome to ToKyoと記された看板が
麗々しく掲げられていた。
ところどころ突然大文字になっている理由は不明である。

世界における資本主義経済の中心地はアメリカだ。
ミネラル市場とて例外ではない。
昨年秋にニューヨークで起きた同時多発テロは、
鉱物趣味の世界にも微妙な影を落としている。
新宿スペースセブンの会場は初日から大入満員だったが、
品物の方は例年に比べてやや低調っつー印象は否めなかった。
いまひとつ話題性のある出物に欠けるのと、
相場が全般に少々上がり気味なのだ。

とはいえ、それはあくまでトータルな印象。
ひとつひとつのショップを回るのはやっぱり楽しい。

最近の人気はトルマリン=電気石である。
あちこちの店に種々様々な電気石が並び、
いずこもそれなりの人だかりが出来ていた。
売っているのは宝石とは限らない。
長辺30センチ程のビニール袋に詰められた真っ黒いトルマリンは入浴用だ。
お湯が黒ずむぞ絶対。
しかもラベルには「1000kg」と印刷されている。そらあ1トンだ。
湯浴みの暁には風呂の底が抜けること必定。
恐るべしパワーストーン。

お客の一人は、この軽トラに2袋しか積めないはずの入浴剤を
軽々と手に取り、
「これは磨けばキレイになるんですか」と無邪気な質問を発していた。
店員が何と答えたかは聞き漏らしてしまったが。

水晶散歩の鉄電気石の項にも記したように、
この手のトルマリンの原石とやらに宝石的価値はまったくない。
ミネラルフェアにその手の福袋的な掘り出し物を期待するのはちょいと難しい。

見た目こそフリーマーケット然としているものの、
相手は自分の売ってるものの価値を承知している。
まれにラベルには記されてない
珍しい鉱物が共産しているケースが考えられるが、
そんなブツを掘り出すには相応の鑑定眼が必要なことは言うまでもない。

そうでなくても多少の予備知識が必要な物件は多い。
某ショップでは青紫色の透明な鉱物が1個数百円で売られていた。
値札にはタンザナイトとある。
この宝石鉱物の相場は普通1センチ角で5ケタに達するはず。
数百円サイズに砕くとなると1ミリ以下になるように思えるのは気のせいか。

値段については複数のショップでダブっていることが多いので、
幾つか見てみて大まかな相場を確認する。
そこから極端に外れる場合はちょっと注意した方がよろしい。
贋物や人造品の可能性がある。

殆どのお店では人造品はその旨を明記している。
しかし新規参入も多いこの業界では、
ひょっとすると売る側が知らずに並べているケースも
ないとは言い切れないのだ。
買物はあくまで自己責任で。

今回は少し時間に余裕があったので、化石関係のショップも覗いてみた。
以下次回に続く。



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第15回国際ミネラルフェア探訪記・その2。

以前も記したように、化石標本の購入はちょっと難しい。
鉱物標本が未加工が基本なのに対し、
化石は手を加えられているのが当り前だからである。

欠けた部分は接着してあるし、足りない部分は補修してある。
生物が這った跡などの生痕化石に至っては、
基本的にただの模様のついた堆積岩なのだ。
これらのどこまでを本物とみなし、
あるいはどうやって贋物を見分けるかは素人目には至難のワザというものだ。

これはもう信用できる売り手を探し、相手を信用して買うしかない。
頗るあやふやな話だが、
標本の様子や売り方でその辺はなんとなく判るものである。
正確には「判ったような」気がする。
後は自分の判断を信用して取引するべし。信用取引だ。

前回も書いた通り、
だいたいが物を購入するという行為は自己責任なのである。
特にこのような場所での買物は、
余程のことがない限り保証書なんかつけてくれない。
泣き寝入りしない、っつー自信がないなら
最初から買わなければよろしい。

私の覗いた幾つかの店では、
模造品にはちゃんとレプリカであることが明記されていた。
複製品であっても悠久の地球の歴史を楽しむ上で何の問題もない。
最近は貴重な化石標本のレプリカによる展示会も各地で開催されている。
割り切って複製専門で集めるのも良いように思った。

三葉虫は時代を追うにつれギーガー顔負けの複雑怪奇な造型に進化してゆく。
あまりの複雑さに我が身を持て余して絶滅したという説もあるくらいだ。
似たような行く末を遂げた剣歯虎・サーベルタイガーの頭骨もあった。
こいつは無闇にキバが長くなった挙句に滅びた種類だ。
アンモナイトは進化の過程でうずまきが解けて伸びたり絡まったり。
特別展に飾られていた高さ1メートルばかりの化石には、
「巻いてないアンモナイトでは最大級」と但し書きがあった。

中には有名なバージェス頁岩生物の化石のレプリカもある。
例え本物でなくても、
自分の机の上でアノマロカリスの当時の勇姿を偲ぶなんて
なかなかオツではないか。

魅力的なアノマロカリスやウィクアシアを我々に紹介してくれた
「ワンダフル・ライフ」の著者、スティーブン・ジェイ・グールド氏は
奇しくもフェア開催期間中に物故されてしまった。
60歳。研究者としてはまだまだこれからという年齢である。
残念でならない。

購入する気がなくとも、並べられた化石標本を眺めるのは楽しい。
これらの小さなショップひとつひとつは、
いわば自然史博物館の縮刷版なのだ。
30cm四方の板に刻印されたウミユリやベレムナイトは
精緻なシュルレアリスム絵画の風景である。
手の届く範囲ではサメの歯のそれや生物の糞化石なんてのも並んでいた。
後者なんかネタとしても面白い。
石になるようなうんこはさぞや固かったに違いない。

結局今年も化石類は何も買わなかったが、
3センチ程のヒトデのレリーフはちょっといいと思った。
岡本太郎デザインのパイラ人みたいで。

次回、ミネラルフェア探訪最終回。


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第15回国際ミネラルフェア探訪記・最終回。

今回も海外からのさまざまな出展があった。
その店舗数は65(国内業者は73)。
国名を列記してみると、アメリカ・ドイツ・フランス・オーストラリア・
メキシコ・オランダ・カナダ・スリランカ・ブラジル・イタリア・タイ・
ロシア・韓国・インドネシア・パキスタン・ウルグアイ・インド・台湾・
イギリス・チェコ・スペイン・ペルー・アルゼンチン・中国に及ぶ。
ちょっとした人種のメルティング・ポットだ。
W杯前哨戦といっても過言ではない。過言だよ。

これら全ての国の言語が操れればさぞかし楽しいだろうが、
見たところ客の多くはC-3POではない。
こちとらカタコトの英語が精一杯である。

一人の女性が標本を指差してしきりに
「キープ、キープ」と言っていた。
カナダ人らしい店員は目をぱちくりさせている。
たぶん取り置いて欲しいのだろうが、その意は相手にさっぱり通じていない。
悲しきコミュニケーション・ブレイクダウン。言語の壁である。
コイサンマンを笑わしにゆく日は遠そうだ。

するとそこへもうひとり別な女性が現れた。どうも友人らしい。
キープ嬢は彼女に向かってことの次第を訴えた。
曰く今持ち合わせがない。銀行で下ろしてくるまで取り置きして欲しい。
友人はふんふんと頷くと、
店員に向かって流暢な英語で彼女の事情を説明しはじめたではないか。
カナダ人はにっこりと笑い、即座にOKを出したのであった。
うわあ格好いい。

確かに友人は格好いいが、
取り置きなどというややこしい交渉にカタコトの語学力で挑んだ女性も、
実は結構オットコ前である。

生活習慣の違う相手に対し、下手に出たりもじもじしてみても意味はない。
たとえば値下げ交渉を嫌う日本人は多いが、
だったら黙って値札通りの金を払えばよいだけのことである。
値切っている他の客に対して眉を顰めるのはお門違いというものだ。
たまに「自分は育ちがいいから値切れない」みたいなニュアンスの声を聞く。
それはそれで結構なことだと思う。
但し、売り手は別に客の育ちや家柄なぞに興味がないことは承知して頂きたい。

諸外国で値切りにかかるオバさま方を「日本の恥」とする論調がある。
しかし、日本人=言い値を払うカモだと認知されるのも、
それはそれであまり名誉な話ではあるまい。

フランス人のショップで見かけたお爺さんは、
孔雀石の標本を手に取って連呼していた。
「チーパア、チーパア!」
雀のガッコの先生ではない。
cheeper、すなわちチープの比較級なのだ。
そんな交渉の仕方があるのは初めて知った。
しかも相手の赤ら顔のフランス人の爺さんにしっかり通じている。
結局ちっとも値引きはしてなかったが。

これは私も負けてはおれぬ。
見事なブロシャン銅鉱を手に取ると、爺さんに告げた。
「ディカウント、プリーズ」
爺さんはにんまり笑って答えたものである。
「ディスイズ、ベリナイスプライス!」
「うむむむむ…I see,オーケイ…」

値下げ交渉、失敗。

ちなみにこのような場所では、
引いてくれる時はあっさり引いてくれる。
そういうお店では最初から値引き部分込みの値札がついているのだ。
アクセサリー関係のショップではかなり有効なようなので、
ダメもとで交渉してみるのも悪くないかと。

今回の収穫、スクテルド鉱・毒重石・蛭石・含銅アロフェンその他。

次は12月、また池袋でお会いしましょう。

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