REPORT
11回国際化石鉱物ショー


年末進行の隙間を突いて今年も行ってまいりました。
歳末恒例ミネラルショー。

イベントの概要は昨年第10回の分を参照して頂くとして。
全体的な雰囲気としては新宿同様、
あまり景気のよろしい感じではなかった。
賑わってはいるものの、
いまいち唸るような出物がないというか。
何かこう変わりばえがしない感じで。
こっちが慣れちまったせいもあるのだろうけど。

初心に返ってみれば
色とりどりの岩石鉱物や化石の並ぶ展示会場は
やっぱり十分素敵だし、楽しい。
花や虫と同じくこれもまた豊かな大地の恵みなのだ。


今回残念なことにあまり元気がなかったのは海外業者である。
殊にドイツ、アメリカといった
鉱物趣味の老舗のはずである国々の品揃えが少々寂しかった。
海外からの出店は普段縁がないだけに楽しみにしてるのにぃ。

もっとも、私の印象はほぼ原石を扱う業者に限られている。
カット石やルース関係は今回完全にスルーしているので、
そちらの方はどうだったかは分からない。


原石関係では、
今年になって市場に出回りはじめたペンタゴン石が目についた。
このサイトに収録してあるカバンシ石と似て非なる鉱物で、
済んだ青色透明の結晶が美しい。

ただ、新宿ミネラルフェアで出ていたペンタゴン石を調査したら
その一部がカバンシ石だったという報告があった。
目新しいこともあり、肉眼鑑定が難しいのだ。
購入はちょっとした博打になる。
手を出すには少々オッズが高い。
結局、買うには至らなかった。

それでも最終日にはあまり残っていなかったので、
結構売れたものとみえる。


ペンタゴン石以外にも「おっ」と思うものはあったが、
大概は値段を見て「うおおっ」と唸って終わりだった。

以前のレポートでも触れたように、
標本の並べ方は頗る適当である。
500円の標本の脇に堂々とした結晶標本があるので手に取ると、
ラベルに6万円とか書いてあって驚倒したりする。

とあるパキスタンの店に置いてあった数百万円の巨大な水晶は、
最終日に売約済の札がついていた。
一瞬ほほうと思ったが、何だかウソくさい。
どう見ても数百万の値打ちはないぞ、あれ。

公式ガイドブックの目次に次のような但し書きがあった。

「昨年人工の宝石を天然と偽り販売しておりました業者を
会期中に強制退去させるというトラブルが発生いたしました」

へええ。知らなんだ。
まあ、これは発覚したから騒ぎになった訳で、
気づかずに購入してゆくケースも十分考えられる。
買う方もその辺の腹は括ってかからないと仕方がない。

んではお店の方を見て参りましょう。

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6月の新宿フェアと12月の池袋ショーでは主催者が異なる。
前者は鉱物科学研究所、後者はプラニー商会だ。

従って双方には微妙な住み分けが存在しており、
出店している業者にも多少の異同がある。

新宿で黄鉄鉱を並べているお店はスペインの業者だが、
池袋で似たような品揃えをしていたのはチリのお店だった。
黄鉄鉱標本の産地はスペインとペルーなので、
チリはご近所のよしみなのだろう。関係ないか。

しかし私の目を引いたのは黄鉄鉱ではなく、
その脇に並んでいた濃い緑色の鉱物標本だった。
アタカマ石 Atacamaite である。
銅の塩化物である本鉱は、その名の通りアタカマ砂漠を原産地とする。
アタカマ砂漠といえばチリである。
「チリのお店で売っているアタカマ石」っつう場況設定が気に入った。

私が選んだ標本を差し出すと、
肌のやや浅黒い女性の店員は石を裏返し、
「モアー」と指差した。
裏側にも結晶が付いているよ、と言いたいのである。
にっこり笑って「キレーイ!」と言ったその表情に、
私は確かにインカ帝国の末裔の面影を見たのだった。
ええ、ウソです。


次に足を止めたのは去年も覗いたインドのショップである。
今年も同じブースに出店していた。
店主は相変らずインド人である。
ただし前回客を混乱に陥れた日本人女性はいなかった。
代わりに何事かを書きつけた紙切れが置いてある。
見ると
「Apophyllite 魚眼石  Okenite オーケン石」
などと印字されている。

なるほど。去年は問題の店員が
スティルバイトやアポフィライトの和名を知らなかったのが敗因だった。
店主は当然英名しか把握してはいない。
しかしこの紙を見せれば、
英名と和名が一致して円滑な意志の疎通をはかれるってえ寸法だ。
やるな。学習してるのね。

ちなみに鉱物名の横には備考欄があった。
魚眼石の項にはただ一言、

「緑が高い」

と記してある。
いやそりゃ確かにグリーン魚眼石の方が
無色のものより高価なんだけど。
それって備考とはちょっと違うんでないのか。

ちなみに他の鉱物の備考欄はほとんど空欄だった。しくしく。

扱う品々はインド産である魚眼石とオーケン石とカバンシ石、
そして沸石類で、去年と変わりはない。
ただ、今年は小さな晶洞内にさまざまな結晶のついたものが
多数並んでいた。
多くはオーケン石とギロル石だが、
中にちょっと硬そうな白い針の塊があった。

手にとって眺めているとすたすたと店主が寄ってきた。
結晶塊を指差して素っ気無い口調で言うには、
「Natrolite」。
ああ、やっぱりソーダ沸石だ。

実は今回、海外の業者から購入したのは以上の2点に加え
オーストラリア産の小さなオパールの詰め合わせ、
アメリカのお店で一個千円で売られていた鉛丹の標本くらいである。
後はウインドウショッピングに終始してしまった。
エトリング石のでっかい結晶とか格安の淡紅銀鉱の結晶塊とか、
気になる品は色々あったのだが
どうもいまいち決め手に欠けた。
予算との兼ね合いっつーもんもあるし。

水銀と並んで朱色の原料とされた鉛丹は、
意外と標本市場では見かけない。
今回は日本のお店で
4センチ大の色鮮やかな標本が出ていたのを一度スルーしている。
購入したものの10倍以上の値段だったのだ。
どうせ結晶塊って訳じゃないんだから、
もーちっと細かくして安くしてくれんかなと思っていたら、
別の店で小さくて安いのが売ってたって訳で。

こういうのが私のフェアの買物の仕方ではある。
けちって買い損ねることもあるだろうが、
そこまで気合の入ったコレクターではないので大して後悔はない。


前回、私がロシアのお店で購入した、
コラ半島産のコランダムの標本がある。
ラベルがないため、コランダムであることを確認して買ったのだった。
詳細は昨年のレポートをご参照頂きたい。

今年も同じ店が出ていたので覗いてみた。
やっぱり同タイプの標本が出ていてラベルはなかったが、
昨年とひとつ違う点があった。
店員が標本を指差し、道行く人々に
「ルビー! ルビー!」と強調していたのである。

コランダムの赤いものがルビーなので、これは別に間違いではない。
売り方を覚えたなロシア人。


さらに続く。
 

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今回は水晶専門のお店も幾つか見て回った。
専門の店があるってことは専門のコレクターがいるってことで、
水晶市場には他では見かけない専門用語が乱れ飛んでいる。
山入水晶や煙水晶はわかるが、
レーザー水晶とかカミナリ水晶とかはいまいち意味がよく分からない。
新宿フェアの時に店の人に聞いてみたのに忘れちまったがな。

なかなか豪華なのはレインボー水晶だ。
これは結晶の中のクラック(ひび)が光線の具合によって虹色に光るもの。
逆に光線の具合によっては、
単なるひびの入った水晶にしか見えないっつう難点はある。

複数の水晶の単結晶が集まってできた塊には、
「カテドラウ」とラベルが貼られている。
微妙に耳慣れない単語だと思ったら、
他の店にゆくと「カテドラル」或いは「カセドラル」となっていた。
やっぱり大聖堂であるらしい。
言われてみればそういうような形をしていると言えなくもない。


水晶系のショップでは原石だけでなく
研磨品や加工品、アクセサリーも多い。
水晶球はおなじみだし、
昨年も見かけたハート型カットのローズクォーツもごろごろ置いてある。
素敵なのは水晶製のどくろだ。
高価なものはかなり精密な細工が施されている。

しかし、会場の片隅のワゴンで見かけた15センチ大のクリスタル頭蓋骨は、
脳天に「3割引」と札が貼られていた。
投売りしていいのか、こんなもん。
呪われても知らんぞ。


インドのお店には先端に尖った水晶のついた奇妙な飾り棒が売っている。
長さは10〜20センチ程度か。
ラベルを見ても「WANDS」とあるだけで正体がわからない。
世界中の誰よりきっとを歌う人たちだ。

店を訪れていたカップルも疑問を覚えたらしく、
店主に尋ねていた。
インドおじさんは無言のまま棒を右手に持ち、
水晶の先を自分の額に当てて見せた。
実演販売である。
なんだかわからないが
怪しげな道具であることはものすごく伝わった。
質問した男女も「おお」と嘆声を発している。
やっぱりよく判らなかったに違いない。

水晶細工ではペンデュラムも見かける。
振子である。
何に使うのかな水晶の振子。


この手の呪術用品は水晶に限らずそこかしこに見受けられる。
中でもオーラを放っているのは翡翠関係だ。

前回のヒスイ原石の漬物石屋は見かけなかったが、
代わりに主に加工品を扱う店がいくつか出ていた。
テーブルの上に30センチ大の勾玉がドーンと置かれている。
怖いので近寄らなかったが、おそらく値段は7ケタだろう。
真言密教で使う独鈷杵(どっこしょ)や五鈷杵もあったりして、
かなりマントラな世界ではある。
そのものずばり仏像を並べている店もあり、
くだんの一角は突然骨董品屋の様相を呈していた。
鉱物化石なのか仏像。
いや勾玉もそうだが。

鉱物化石以外といえば、
パキスタンかどっかの店の壁に貼られていた豹の毛皮は
あれも売り物だったのだろうか。

昆虫標本にはちょっと惹かれたけど。

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私が足を運んだのは初日と最終日だった。
最終日は本当に終わる直前で、
多少は値引きされているだろうと睨んでのことである。
閉店前のスーパーに駆け込むアレだ。
んでも悲しいかな価格破壊は一部のカット石やアクセサリー関係が中心で、
原石標本はちっとも安くなってなかった。

要するに付加価値のあるものの方が、
値下げの余地があるってことなのだろう。
これは普通に買う際にも言えることなので、
そちら関係を購入される際は交渉してみては。

最終日のお客は夕方ってこともあり、
ツメ襟姿の中学生や子連れのお母様方も見かけられた。
とあるショップを見ている時、
そんなツメエリ君たちの一団が無邪気に店員に尋ねていた。

「スギライトって何ですか?」

無邪気過ぎて質問の意図がわからない。
聞かれた人も困っている。
「スギライトって名前の石なのよ」
まあ、そう答えるしかあるまい。

敷衍すれば和名は杉石で、
これは研究者の杉建一博士に因んでつけられたものである。
マンガンやアルミニウムを含むナトリウムの鉱物で、
普通は黄褐色をしているが例外的に紫色を示す。
ショップで売られているのは通常この紫バージョンの方である。
最近はパワーストーンとしてもさまざまな効能が謳われているらしいが、
そっちは疎いので私も知らない。

んでも若い好奇心はなるべく満足させてあげたいやね。
入場料500円を払って来てる以上は冷やかしとは思えない。
鉱物化石に興味があることは間違いなかろう。
あの中から将来の日本鉱物学界をしょいしょいする
大物が現れないとも限らない。

水晶占い師にならんという保証もないとはいえ。


別な場所では、
鮮やかなラピスラズリの欠片を手にしたおばさまが大声で
「これは塗ってるのよね〜!」と男性店員に言っている。
「いえ、天然の色ですよ」
「嘘でしょ〜! 本当にラピス? 瑠璃なのお?」
疑り深い人ではある。
私もちらりと見たが、
確かに樹脂を染み込ませて着色している可能性があると思った。
おばさまの猜疑心を侮ってはならない。


午後4時の終了間際にひとつ事件があった。
背後でいきなりどんがらがっしゃんと盛大な音がしたのである。

どうも子連れのお母様がテーブルに激突して
展示品をひっくり返してしまったらしい。
ぶつかった場面を見てないので、
犯人はお子様の方かもしれないが。

店員が飛び出して大慌てで散らばった品々を回収している。
肝心のお母様は突っ立ってお詫びを述べているが、
その表情は照れたような半笑いである。
いやお母さん、照れてる場合じゃないって。

岩石鉱物は言うまでもなく壊れ物だ。
床に転落して破損すれば価値はなくなる。
店に与える損害は、
場合によっては数百万〜数千万円単位に達する。

まあ、ぶつかってひっくり返るような場所に
展示する方が悪いって見方もあろうし、
店としても保険に入るなり何なりの手は打っていたかもしれない。

それにしても、明らかに状況を把握してないであろう
お母さんの笑顔がとっても怖かった。

そう、日本人ってすみませんって言いながら笑うのよね。

事態が穏便に収拾することを祈りつつ、
会場を後にした私ではあった。


次は来年6月。新宿でお会いしましょう。
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