REPORT
12回国際化石鉱物ショー


年末恒例国際化石鉱物ショーは、
12月9日〜12日、池袋サンシャイン文化会館2Fで開催された。
そもそも新宿ミネラルフェアよりも広めの会場ではあるが、
今年はさらにスペースが拡大され、通行はかなり楽になった。

もっとも各テーブルにごそごそ店が並んでいる状況は変わるわけもない。
人気店の前は人だかりができている。
それでも広くなった分、店も客層も分散しており
ずいぶん観覧しやすくなっていたものだ。

なじみの店もあればご新規さんもある。
今回目に付いたのはラリマー屋さんだった。
ラリマーってのは正式な鉱物名ではない。
どっちかっつーと「インカローズ」とかと同様、飾り石の名前である。
正体はドミニカ産の青色のソーダ珪灰石(Pectolite)だと言われている。
いずれにせよジャンル的にはパワーストーンに属することは確かである。
そっち方面はあたしゃ疎いのよ。

ヒーリングの効果はともかく、
ラリマーは結構安価で美しい石だ。
怪しげなショップでは法外な値札がつけられていることもあるが、
元々そんなに高いものではないことは明記しておきたい。

大小さまざまなラリマーを並べたラリマー屋さんは
アメリカ合衆国からの出店である。
その様子は以前に新宿で見かけたインカローズ屋さんの青色版に他ならず、
いかにもアメリカ人の好きそうな鉱物であると感じた次第である。

モノは用途が装飾品ゆえにすべて研磨されており、
未加工原石好きの私は見るだけに留めておいた。


奥の拡張されたスペースにゆくと特別展示が行われている。
今回のテーマは「日本の鉱石・鉱物」。
ウィンドウの中には博物館サイズの見事な標本が展示されている。
これは素敵だ。
世界に名だたる愛知県市ノ川産の輝安鉱や
山梨県乙女鉱山産の日本式双晶の水晶はもとより、
黄銅鉱や閃亜鉛鉱、オパールにトパーズといった面々がずらりと並ぶ。
かつて日本の産業を支えてきた鉱石や宝石鉱物たちの雄姿は、
なかなか壮観である。

ラベルの文字にはすべてふりがなが振られており、
ややこしい漢字の嫌いな子供たちでもOKだ。

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カタカナには振らんでもいいような。

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そんな日本産の鉱物には根強い固定ファンがいる。

数少ない国産専門のショップは毎回大盛況だ。
ウインドウは決して華やかではない。
外国産の目もあやな美晶を並べた店に比べればずっと地味であり、
どこかくすんだ印象すら受ける。

それでも店の横に無造作に積まれたトレーに人だかりは絶えない。
彼らは目を皿のようにして、
一見何の変哲もないような鉱石をためつすがめつしている。
その多くはおそらく自身が採集家なのだ。

収集家と採集家には意外と深い溝がある。
殊に自分の足でフィールドに出る採集家は、
金出して標本を買うだけのコレクターを
「金持ちの道楽」として馬鹿にしてたりもするものだ。
気持ちはわからんでもない。
わからんでもないが、
実際には採集に出かける方がよっぽど金とヒマが必要だと思うぞ。

私は自慢できる程の収集家ではないし、採集家でもない。
しかし国産の鉱物は好きだ。
自分の住んでいる国に埋まっている資源を目の当たりにするのは楽しい。

今回は美しい逸見石と五水灰硼石の標本がわりと大量に出回っていた。
岡山県の布賀に産する、世界的にも稀な鉱物である。
聞いてみると春頃にかなり大きな鉱脈が出たらしい。
おかげで値段がずいぶんこなれており、
ちょっと時間をかけて逸見石の結晶塊をひとつ選んだ。
収穫収穫。

今回は見送った五水灰硼石は英名をPentahydroboriteといい、
和名はほぼこの直訳である。
ショップの人は「ペンタ」と呼んでいた。業界用語だ。
このお店に並んでいた黒いインクルージョンを含む標本は、
今年出た学研「日本の鉱物」で紹介されているのと
同じ結晶塊から取れたものだという。

もっともくだんの図鑑の初版では同鉱は「Petahydroborite」となっている。
これではペンタとは呼べない。
誤植だよ。

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いつも気になるのだが、
結局見るだけに終始しているものに隕石がある。

特に中に透明なかんらん石を含んだ
エスケル隕石の切断研磨面の美しさったらない。
いつか小さいのを買ってやろうと思うのだが、
だいたい外人がグラムなんぼで量り売りしている。
地球上に存在しない物質の重さなんて想像もつかん。
100g1000円とかいって、
仮にあの3センチくらいの欠片が1トンあったらどうするんだ。
ねえよ。運べないだろうがよ。
ともあれ何だか手を出しそびれて今に至っている次第だ。

見覚えのあるフランス人のじいさんのお店に、
ひとつ隕石がおいてあった。
ラベル以外に何か札が添えられている。
あやしげな日本語が書かれているぞ。
読んでみよう。

  この隕石は1972年10月15日に牛を殺しました ベネズエラ

恐るべき牛殺し隕石だ。大山倍達もビックリだぞ。
牛を殺したことでハクがつくものなのか隕石。


このような外国の店の日本語ラベルはいったい誰が書いているのか。
多くは明らかに日本人の監修がありそうだが、
たまにものすごくたどたどしい筆跡で記されている場合がある。

アメリカ人のにいちゃんが店番をしている前に、
さまざまにおぼつかない日本語ラベル付き標本が並べられていた。
中にひとつ、母岩の端に黒いものが埋まっているものがある。
ラベルを見ると最初に横文字が書かれている。見覚えのないスペルだ。
はて、何の標本だろう。
気が付くと横に日本語のラベルがあった。

    ゲンゴロ in asphalt

アルファルトに埋まったゲンゴロウじゃんかオイ。
ちなみに値段は500円。
高いよ。

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何だか小ネタ披露くさいレポートになってるが、
ショー自体は例年通りの活況を呈していた。

やはり会場が広くなったのは大きい。
いつになくのんびりと見て回ることが出来た。
その結果小ネタ拾いに走ってしまったのは職業病ってやつか。

ちょこちょこと買い物もしている。
去年立派な水マンガン鉱を買い損ねたアメリカの店に立ち寄り、
雪辱を果たす。
ちょっと他では見られない美品なのだが、
段ボールにゴロゴロ放り込まれていてめちゃくちゃ安いのだ。
しかもこのぞんざいな店は、
最終日になるとそそくさと帰り支度を始めてしまう。
終了一時間前とかに行くともう何もない始末である。

適当な標本を選んで赤ら顔のアメリカ人に差し出すと、
包みもせずにビニール袋に放り込んでくれた。
まったくぞんざいな国民性であることだよ。

その他一粒1500円くらいのダイヤモンドを買う。
正真正銘の本物である。
いずれ紹介するときに説明するつもりだが、
ダイヤは他の宝石以上にピンキリなのだ。
その他に石墨とシュンガ石を購入したので、
なんだか炭素の元素鉱物ばかり増やしたことになる。

シュンガ石を売っていたおじさんは、
「こういうものを買われるってことは
相当なコレクションをお持ちですね」と言われた。
うまい言い方もあったものだ。
要するに物好きしか手を出さないブツなのだわな。
素直に「あんたも好きねえ」と言えばいいのに。ほほほ。


ゲートの横には特別企画として
「鉱石クリスマスツリー」が屹立しており、
通りすがりの人々がカメラを向けていた。
麗々しく飾り付けてはあるが、
どう見てもサンシャインのあちこちに飾ってあるツリーに
石をぶら下げただけにしか見えない。

ものは水晶や蛍石の他、天青石やクンツァイトにエメラルド、
アンモナイトや腕足貝の化石であるらしい。
その割に意外とゴージャス感がなかった。
思いつきは面白いだけに、もーちょっとやりようがあったような気もする。
ちょいと残念。

それやこれやで今年のショーも無事に閉幕。
来年5月、また新宿でお会いしましょう。
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