RICOH R1s 30mm/3.5 RICOH R1s
愛情に応える道具

ここ数年、最も使ったカメラである。
理由は簡単で、とにかく小さく薄く軽いからだ。

私は基本的にはスナップ派である。
三脚を据え、超望遠レンズをドーンと装着し
じっくり待つタイプの撮り手ではない。
「あ、これは」と思った瞬間にパシャッと撮る。
目の延長としてカメラを使いたい人である。


そうなると、携帯性がいいというのは
大変に大きなアドバンテージだ。
R1sは上着のポケットに入れていて邪魔にならない。
服を着、カバンを持っていれば
いついかなる時でも携行が可能なのである。
実際、いついかなる時も携行していた。
今でこそGR1sやTvsの時もあるが、
今年の春までは本当にどこに行くにもR1sと一緒だったのだ。

そういえば、とある雀荘で
某編集さんの初役満を記録したのも、コイツであった。
いつもの日常の、ふとしたイベントを記録する。
そんな仕事にうってつけの道具なのである。

また、小さいカメラというのは
撮られる側も構えない。
一眼レフに対峙されると顔が強張る人でも、
リラックスしたいい表情を見せてくれる。
この、相手に緊張を強いないというカメラの大きさは
ライカM型が限度であるらしい。
私がM4-Pをポートレート撮影に使うゆえんである。

んで、R1sの30mmレンズというのがまた
すっきりとした描写をしてくれるのである。
安価ながら設計に手抜きがなく、私の嫌いな歪曲収差も殆どない。
コンパクトカメラといえば
無限遠のピントが悪いと相場が決まっているものだが、
このカメラにはちゃんと無限遠モードが設けられている。
3点マルチフォーカスは、どんなシロウトさんに渡しても
まずピントが抜けることがない。
ファインダーは明るいし、いざとなれば
30センチ近くまでの近接撮影も可能だ。
おまけに何つっても安い。
安いというのは、余計な心配をせずにがすがす使えるということでもある。
いいことずくめである。

が、乱暴に使いすぎて私はひとつ失敗をやらかした。
取材に行った先の高知県桂浜でのことである。
浜辺ですっ転んで、濡れた砂の上に落とすという
およそ絶対にやってはいけないことをやってしまったのだ。

一緒に落とした9xiは防滴加工のせいで事無きを得たが
(このへんがフラッグシップモデルの偉いところだ)
R1sはさすがに防水加工はしていない。
隙間という隙間に海水で湿った砂が入り込んでいる。
砂、水、塩分。いずれもカメラの大敵だ。
それが束になってかかってきたのだから、
たまったものではない。
私のR1sは、ピクリとも動かなくなった。

こうなると、やっぱり値段の問題ではない。
愛用していただけに、めちゃめちゃ悲しくなった。
東京に帰って一所懸命ブロアーや筆、綿棒で掃除をして
なんとか直らないものかなあと念じ続けた。
するとどうだろう。
ある日、試しにメインスイッチを入れてみると
「ジー」と音を立ててレンズが出て来るではないか。
何とびっくり、直ったのである。

その後しばらくは
レンズバリヤーの開きが悪かったりと
後遺症が残ったものの、
最終的には完全に復調してしまった。

手垢のついた表現ではあるが、
愛情を持って接すれば道具は応えてくれるものだ。

この傷だらけになったカメラを、
だから私は今も大事に使っている。

むろん、愛情を込めて乱暴に。
RICOH R1s 30mm/3.5